千葉房総鋸南町地区
長峡街道



今年は、例年に無く、10月〜11月にかけ、雨の日が多く、なかなか、竹取のチャンスがありませんでした、

12月29日 年も押しせまる中、千葉方面に、3人で、出掛けて来ました、

出船6時20分のフェリーの時間に間に合わせる為、早朝4時起床です、

金谷港までの、海上は、べたなぎ、まぶしいほどの、日の出ので迎えられ港に付いたのは7時、

国道127号線を南下して、長狭街道に左折、進路を鴨川方面に、愛車、モビリオスパイクもご機嫌の快調ドライブ、

街道沿いは何処を見ても真竹のすばらしい景観、途中大きな竹林が気になり早速現地調査、

近くに民家もあり、二人が支度をしている間に、私はごあいさつに、玄関を訪ねる、迎えてくれたのは、3羽の鶏と、猫2匹、

腰の曲がった、おばあちゃんが、居たので、早速竹堀の許可を願うが、急にこんな早い時間に訪れた為か、びっくりした様子、

それでも、わけをはなすと、快く承諾、おみやげと粗品を、渡して、いざ竹やぶへ、

道を隔てて左右に別れ、私と純ちゃんは谷側へ突入、直ぐに1本気になる竹が目に留まる、

竹堀ゲージを抱き節に当てるとこれが1尺8寸の目盛りにピッタリ、さて問題は上管側である、

竹材探しで尺八に出来る竹は100本に1本とも言われるのは、下管と上管のサイズが、ピッタリそろわなければなりません、

また欲を言えば、竹肌に、ついた染みのような黒い波紋が、その価値を高めます、

さらに7〜8年ぐらいの古竹となると、そうやすやす、見つかるわけがありません、

案の定この竹どうやっても上管部分がサイズに合わずがっかり、1時間ほど探し回り何とか1尺6寸管を1本ゲット、

車に戻ると師匠は1尺8寸管を2本下げてご満悦、純ちゃんも1本手に提げてきたがあまり満足そうではない様子、

ひとまずここは引き上げて、次の場所へ移動することにする

長狭街道から左に進路を変え、2年前お世話になった通称牛屋のおじさん宅へ、

道中は進むにつれ道が急坂になり、両サイドの竹林も、さらに圧迫感を増して来る

曲がりくねった道沿いにいつも店を開けている土産店も、さすがに年末年始の休業、

ここの「しいたけ」は安くて新鮮、今日はお土産なしか、ガッカリ

 
 

房総半島南部鴨川市はその昔浅い海の底にあり、長い年月の地殻変動で隆起し今日の陸地に形成されたと考えられている、

地層を調べると、イガイ属の貝の化石や底生有孔虫化石が出土し、当時は暖かい時代であったにもかかわらず、

意外に寒流の影響を受けた海と考えられる

地質は砂岩泥岩が主体となり、この辺の竹林はその様な背景から硬い粘質の土壌が多く見受けられる、

竹材もわりと根の詰まった、短管向けの素材が多く採取出来るようである、

街道から車を進めて15分小さな川沿いの坂道に到着、山手に伸びる生活道路は車一台通れるだけの細い凸凹道、

牛屋のおじさん宅は今日も暖かい日差しの中、庭に咲き始めた水仙が懐かしい、

正面玄関から声をかけると、裏口から猫一匹が出てきた、住人はノラ猫と言っているが、毎日えさをもらって、家の周りで寝どまりする、

しかも周りには、他に民家は無い、ノラ猫とは飼い主が付けた名前なのかな?ふと疑問が沸く、

 

真竹と淡竹

この地域では真竹の事をクロチク、淡竹をシロチクと呼び筍の形状その色合いで区別している様である、

この辺りで筍として利用しているのは淡竹が主でこの種の竹林はきれいに管理されている、

真竹の筍は少し苦りがあるのかあまり珍重視されず手入れが行き届いていません、

最近話題となる竹害はこの地域でも深刻で真竹の繁殖能力のすごさには驚きます、

その被害は杉林や雑木林に大きな打撃を与え早急な対策が必要かと思います、

真竹と淡竹の違いこれが意外と解りにくい、竹の一生は竹林全体で考えなければなりません、

まだ若い竹林の竹薮は細い竹が多くその林が世代交代する中で地中の茎が成長し竹の太さも徐々に大型化していきます、

竹林の成長過程に合わせて固体の葉の形や枝ぶり節の形状なども変化していきます、

尺八に適する竹は幹の太さ35mmが揃う竹林です、この大きさの竹林は真竹と淡竹は葉の形や節の形状かなり類似して判別が難しいものです、

おじさんの勧めで北側の山に入る事にする、

ここの竹林もいつの間にか勝手に繁殖してきた厄介者の真竹で雑木林を占領し今は山の頂上まで居座っている、

コンクリートで固めた生活道路をさらに登って林手前の小さな空き地に車を止める、

見晴らしのいい高台から暖かい日差しを浴びた穏やかな低山のパノラマが展開する、

12月という季節のせいだろうか雑木林や杉の林がなんとなく力なく見え、逆に竹林の勢いのよい青さだけが目に付いた、

 

竹林は東向きの斜面にあり、中腹に細い林道が付けられている、道の谷側は急斜面で雑木林と混生の太目の竹が陣取っている、

山手は大きく2段にうねった斜面で、下に大きなくぼみの平地が取り付いている、

尺八の竹材は急な斜面では、根元が洗われて地盤が軟らかく根も間延びして形の良いものが少ない、

平地の地盤の良く締まった地形に目的の竹材を見つける事が多いものだ

竹の主幹は、地中20cm位の所に横に伸びていてその太さはわずか25mmぐらいである、

短い節と根を持つ主幹は創造を絶する繁殖力を持つ生命体で硬いコンクリートも打ち抜く勢いで地中を這い回る、

竹の子はその主幹から芽を出して地上に現れその成長速度は1日あたり10cmから100cmと成長過程と共にその伸びる早さも加速される

2週間もするとほぼ竹の全長が形作られ、その後は毎年枝に新芽を追加して10年ほで自然に朽ちていく

尺八に適した、竹年齢となると、人それぞれ意見の相違があるようだ、

5年物が良い、いや8年ぐらいの古竹が良いとか

竹材の値打ちは竹年齢、節の間隔、反りと握りにあった楕円の形、もう一つ加えたいのが竹の表面に自然についた黒い染みの斑紋

竹表面に現れる斑紋は、バクテリヤや小さな細菌が原因とされ、その土地の環境と土壌に大きく影響を受けていると言われている
 

竹採取の道具は人それぞれである、皆自分の道具が一番良しと自負しているらしい、

尺八に適した竹材選びの採寸ゲージの形は携帯に便宜良くそれぞれに工夫を凝らしている、

小さく折りたためる物、巻き取り式のメジャー方式、スライド式の物、

いずれにしても自分が使いやすく考えたものだから、自分にとってそれが最上の道具と言える分けだが、

その物を他人が使う時納得できるかは疑問である、

竹の根はせいぜい地表から30センチ足らずの深さであるが主幹に結合された抱き節以下の張り根は頑固でたやすく断ち切れるほど柔ではない、

師匠は突きノミのような形に力を補助する為の鉛の重りを刃の上に乗せている、力が弱くても、硬い根に刃が食い込む、

体力に一番自信のある純ちゃんは横幅の大きい大型のつきノミ構造、自動車の板ばねに刃を付けた自重形である、

で 私の場合、単純な斧、竹割りに使う刃の構造はシャープな鋭角で、振り下ろす際、的を外さないコントロールが必要である、

斧の大きさが小さいので、リュックに2本入れてもかさばらない、竹藪の移動に身軽で便利である、
 

竹薮に入って、まず1本目の1尺9寸を堀り出しに取り掛かる、

太さ34.5mm、枯葉に覆われた地盤は小石交じりの硬い粘土壌だ、

ゴムの付いた軍手で枯葉を掻き分け表面の土を手で取り除くと、3節部分が出てくる、

この3節とその上の抱き節迄の間隔が1尺8寸管では49mm、短管1尺4寸管で38mm、長管2尺2寸管では61mm、

(第一研究室 採寸ゲージの項参照)であるから、自分の小指の長さに照らし当てて、大まかな計測の目安にすると良い、

この間隔が自分の小指からはみ出る様だと、かなりの長管でもサイズ外れとなる訳だ、

もう一つは歌口から5孔(裏孔)までの距離

1尺8寸管では220mm、短管1尺4寸管で170mm、長管2尺2寸管では284mm、(第一研究室 採寸ゲージの項参照)である、

この長さは自分の手のひらをいっぱいに広げた時の親指と薬指との間隔の長さ、

自分自身の簡単メジャーとして活用すれば、採寸計測のすばやい判断の目安になると思います、

下管と上管の簡単メジャーで外れた凡外品はどうしたら良いか、

下管のサイズ姿形がとても良いのに、上管のサイズが合わなくて、採取するのをあきらめていませんか、

この様なときは同じ竹薮から他の竹の上管に適した素材を調達します、

同じ竹薮には同じような竹肌と太さ形の竹材が沢山あります、その2組を1本の尺八にすれば良いのです、

竹材の有効利用に関しては、工夫次第でいろんな方法があると思います、趣味で自分だけが使う分では姿の良し悪しも許されると思います
 

さて最初一所に固まって居た仲間が、思い思いにいつの間にか、ばらけて姿が見えなくなる、

3本4本と収穫が増えると竹の重さが増えて、場所移動と運搬にかかる労力が大変である

本数が多くなったら、運搬方法に工夫が必要です、5〜6本溜まったら、まとめてシートに包むと良い、

この時竹同士が接触して竹肌に傷が付かないように、1本1本シートに巻き込みながら包み込みます

最後にシートに包まれた束を太い輪ゴムで止めます、これだけでOK

持ち運びの時はシートの上から竹の一本を鷲掴みすれば良い

10本以上の竹をばらばらに持ち運ぶのは無理だが、この方法で両手に下げて十分移動が楽である
 

思い思いばらけていた他の仲間も山の頂上付近に、いつの間にか集まって来た

竹材の運搬方法も3者3様である、麻製の大袋に詰め込んだ師匠、大きな体の小脇に抱えこむ純ちゃん、皆汗だくである

昼飯にしよう、と下山するが、斜面に良い竹を見つけて後ろ髪が引かれる

車に戻って、腹ごしらえをすると、本日の獲物の品定めである

根に着いた泥を落とすと、管尻の形があらわになる、ここでがっかりする者、笑顔がこぼれる者、運命の分かれ道である

次に寸法と形である、節と手孔の位置加減が微妙である

互いに「形がどうの」「長さがどうの」と竹材の品評して最中、風が突然強く吹き荒れてくる


 フエリーの運行が気になり、早々切り上げとする

帰途海岸を抜ける道は台風並みの大荒れである、

今朝あんなに穏やかだった海も白波が大きく迫上がり海岸近くの岩に取り残された釣り人がヘリコプターでの救出劇を演じている最中である

フエリーの運行も気になるが、時間も出航までわずか3分前だ

結局港に辿り着いた時には1分遅れで、「しょうがないか」とあきらめたが、なぜか船が留まっていた、

乗船口を開けて手招きする職員「ラッキィー」ばかり駆け込む「モビリオスパイク」

乗り込んだ船内はパニック状態、船底から突き上げる衝撃波と横殴りにたたきこむ水しぶき、

全身ずぶ濡れ状態で客室に続く階段に這いずるようにしがみ付き無事船内にたどり着く

「強風の為本日の運行はこの1本で打ち切り」との船内放送、

思わぬ幕引き劇に皆ぼーぜんと声も出ない

この時収穫された竹は油抜き日晒しされ、管尻に「15年12月鴨川」と書かれ我が家の床下で眠っている

                                                以上 竹取報告でした